「言ったのに伝わらない!」と思うことはありませんか?
「昨日の授業で課題を伝えたのに、ぜんぜんやってきていない。」とか、「SNSで同じようなトラブルを何回も起こす。」とか。
「なんで分からないの?」って思うことありませんか?
こんにちは。BigWaveといいます。公立中学校の現役教頭です。奇妙な生態を持つ教師「教頭」。そんな「教頭先生」の頭の中を公開します!

→「分からない人はいませんか?」と言っても伝わらない
不定期にですが、校内自主研修(21.やってみた「OFF-JT」)をしています。17:00から始まる30分一本勝負の勉強会です。先日そこで「言ったのになぜ伝わらないのか?」という講座を持ちました。
昔、授業を受け持っている時に、「毎回宿題を忘れる。」や「動詞の活用に関する問題を毎回テストに出すと伝えているのに、正答率があまり向上しない。」といったことがありました。
最近では、「漢字の書き取りの宿題ではふりがなも書く」とか「ゲーム機を所定の位置に戻す」を何度言ってもやり忘れる(我が子)なんかが思い当たります。
これはもちろん大人も同じです。「〆切日を伝えているのに守れないのはなぜか?」「会議の時間に遅れてくるのはなぜか?」「出勤印を毎日押印できないのはなぜか?」これらは職員室あるあるです。
自戒の念を込めて言いますが、何回も言っているのに行動に繋がらないから、感情的に叱るのは根本的な問題の解決にはつながりません。
そこで、「言ったのにどうして伝わらないのか?」の理由を理解しようと思いました。その理由が分かれば、落ち着いた対応や割り切った対応ができると思ったからです。
そうして学んだ内容を、校内自主研修で興味がある方と共有しました。その中身は以下の通りです。
1.再生の限界
2.情報処理をするためのワーキングメモリの容量
3.「分かったつもり」
4.誰のせい?
1.再生の限界
言ったことが伝わるまでにはいくつかのステップがあります。まず単語が分からなければ、いくら詳しく説明しても、相手には伝わりません。
単語が分かれば次は統語、そして主語と述語の組み合わせによるイメージ(表象)、そのイメージがもつ風景の記憶(スキーマ)、いくつかの文が組み合わさって意味を作る文脈など、いくつものステップをクリアした先に、「分かる」が生まれます。
ここで大事なのは、伝えたい内容を発信するoutput側の大人が持つ語彙から文脈理解の能力と、それを受け取るinput側の子どもの能力には大きな差があるということです。
伝えたい人が頭の中で想像している内容は、音と言う空気の振動によって、相手の頭の中に入ります。その音は、相手の能力がベースとなって単語から文脈のステップを一瞬で駆け上がって意味を再構成します。
この再構成の解像度は、受け手の能力に比例します。「理解してほしい内容」と「実際に理解した内容」は同じではなく違いが生まれます。もし「言った内容をそのまま相手が受け取っている」と考えているなら、「言ったのになぜ分からないの?」となります。
会話はキャッチボールと言いますが、野球ボールを投げたとしても、野球ボールとして受け取ってくれるわけではないのです。逆もしかりです。
2.情報処理をするためのワーキングメモリの容量
聞こえてきた音声はワーキングメモリ内で、意味のある内容に再構成されます。ただこのワーキングメモリの容量は非常に少なく、個別なものでは7つ程度しかキープできないそうです。一つの文に「?」が7つ出てくるとその文は理解できないということになります。
3.「分かったつもり」
これが一番たちが悪いです。授業でよく、「分かりましたか?分からない人は手を挙げてください。」と聞いても、だいたい誰も手を挙げません。
これは手を挙げて「分からない」をみんなの前で表明できるだけの心理的安全性が確保されていないとも考えられます。でもそもそも「分かっている」と思い込んでいる可能性もあります。
Input側は聞き取った内容を自分で再構成します。その結果、自分なりに納得ができるものが再構成できたのなら、これは「分かった」となります。
Output側の伝えた内容と、input側で再構成された内容が異なっているかどうかは、その段階では分かりません。Input側が再構成された内容をもとに行動する時、例えば「宿題やるところ間違えた!」となって初めて、伝わっていなかったことが分かります。
「分かったと思い込んでいた」、つまり「分かったつもり」です。「分かったつもり」になっている人に、「分からないところはありませんか?」と聞いても反応はありません。今思えば当たり前のことです。でも昔、授業でよく、「分からないところがあれば、班の人に教えてもらって。」とよく言っていました。

4.誰のせい?
つまるところ、言ったのに伝わらない原因は誰にあるのでしょうか?
・Input側に不足している情報を把握し補填する。
・Output側とInput側の能力の差による誤解を解消する。
・Input側が再構築する際にオーバーワークにならないように情報量を調整する。
これらは全て、子どもではなく大人の役割です。新しい知識を理解させて使えるようにするにはどうすればいいのか、それは教師の職分です。今回の校内自主研修では私自身が一番学ぶことが多かったように思います。ラーニングピラミッドを体感できました。
今回の講座を持つにあたり、とても参考になった本があったので紹介しておきます。上記の1~3をより詳しく知りたい方は是非読んでみてください。
「AI vs 教科書が読めない子どもたち」 新井紀子 著
「認知心理学の視点 頭の働きの科学」 犬塚美輪 著
「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」 西林克彦 著
「読めば分かるは当たり前?」 犬塚美輪 著
今回のお話にはまだ少し続きがあります。それはまた次回。
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